2020年香水再考


自分にとって不可欠なもの、不可欠だったものについて切り離された今、生活様式をこれまでと全く変えることによって「新しい生活」にシフトチェンジすることを世の中では推奨されている。しかし外的に押し付けられるのではなく、思考することによって生活や自分を変えることが人間にはできると思う。これまでと地続きの、しかし新しい自分(に続く日常)を手に入れる。本文はその試みとして香水を再考したものである。

呼び水としての香水

 香水が持つ個性豊かな香りは強い装置である。特定(または不特定)の人に向けて、記憶や感情を思い出させ、引き出す。あるいは自分が見知ったあの人の香りだとも思うだろう。だからある意味、人が香水を纏うということは自らの隠された意志を他者に突きつける、または他者の秘められた(幸せな・凄惨な)思いを暴き出すという行為だ。それは時として暴力的だけれども、どうしようもなく魅力的な体験でもある。そして自分にとっても香水から導き出される記憶、景色は掛け替えのない宝である。私がこの文を書くのは香水によって思い出された記憶や感情を保存するのはもちろん、それらを清廉し熟成することを目的としている。そして自分以外の人がこの文章によって、私の些細な記憶や感情を面白おかしく思ってもらえることを一番に願っている。

 

コミュニケーションツールとしての香水

 ステイホームということで、化粧をする機会が減った。私にとってお化粧はルーチンでありつつも気分を切り替えるものとして作用していたので、なんだか日々に張り合いがなくなってしまった。そういった鬱々とした自分のために、香水を付けることが大きな救いになっていたと思う。この期間にしばらく使っていなかった香水を手に取ってみることも増えた。もう一度数か月友達に会えない分、時間をかけて手紙を書いていた。選ぶ封筒やペンだけでも気分や思いを伝えられるが、私のお勧めは香りを忍ばせることである。好きな友達が文香を入れてくれていて、しばらくデスクに飾って寂しくなった時に嗅いでいた。それにならって私も香水を紙にしみ込ませて(空中に数プッシュしてそこに紙をひらひらさせる)添えて手紙をだした。zoomやライン通話は声や表情は届けられるけど香りはまだ届けられないので、こういったコミュニケーションツールを組み合わせることによって、会えなくてももっと気持ちや雰囲気を伝えられる。

 

 以下は私の思い出深い香水の五選である。

 
①Acca kappa オードパルファム ホワイトモス

 この香水は三年前くらいに買った。最初の出会いはKitteにて。ずっと気になってたけど買わずにいて、見に行って10回目でこんなに迷っているなら買ってしまえと思って40mlのバージョンを買った。その時からずっと好きで、二年前に新宿のコンランショップでめちゃでかい100mlのサイズを買って現在も使っている。ただ、匂いが変わりそうなので小さいサイズで都度買いしたほうがいい気がする。パッケージも黒ラベルにロゴ(はさみと櫛と香水瓶のロゴ)がシンプルで好きだ。いろんな香水瓶がある中で置いてあっても場をごちゃつかせない。

肝心の香りは、もう最初に嗅いだ時から「清潔な水」っていう言葉が離れなかった。一吹きすると最初はアルコール臭に近いきつい匂いがするけど、其のあとから体温に馴染んでリネンのような香りになる。トップのエタノール臭(あまりこう書くと印象がよくないかもしれないが)が空気をキリっとさせてくれる。出かけたくない朝や、気合を入れるために付けることが多い。正直香り持ちはいいとは言えないけど、朝これをプッシュする時、「新しい朝が来た」という気持ちになってやる気が出る。この文を書いていて、この香りのことを「頼りないけどちゃんとそこにある香り」と言われたのを思い出した。www.accakappa.jp

 

②No.4 Maison Louis Marie(メゾンルイマリー)ボワ ドゥ バランクール|バランクールの森(パフュームオイル )

 

 一か月の短期留学(NZ)の時思いたって多くある香水の中でこれを持っていったわけだけど、とても寄り添ってくれた。これをつけるとその日々のことを思い出す。若干の不安さ、ニュージーランドの乾燥した夏…。香りによって予期せず記憶や感情を回顧するって暴力に近いけど、身に着ける香水を日々選ぶときってそういった何気ない刺激を求めている。

 最初にこの香水と出会ったのは香水ガチャ(ノーズショップ新宿にて)で、その時店員さんに「人気なんですよー」って言われて、ひねくれてる私はふーん、まあ私の好みかはわからないけどねって思ってた。今思えばニュージーランドはとても自然豊かな国で(こういう時nature とは言わずgreen spaceというらしい)バランクールの森と称されるこの香りと親和性があったのかもしれない。

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③Aesop ”Marrakech” intense

 

続いてニュージーランドで買った香水。留学先で仲良くしてくれていた(もちろん今後も仲良くしたいと思っている)子が「香りによってその時の記憶や感情を思い出すから、そういった点では香水を買うのって決して高い買い物ではない」と言ってくれて、その言葉に納得したし、その子との一か月深く語り合った時間の記念として買った。もちろんこの買い物は大正解で、今でもお風呂上りや友達にあげる手紙など一吹きして楽しんでいる。送った友人達にも好評なので、文香として使っても良いと思う。香りというと「日本古来のヒバの木と苔寺の青々とした庭」から着想を得ているようで確かにウッディ、スパイシーな香りだ。また付けたての時に薫るビャクダンのやや鋭利な匂いから、肌になじんだ時に徐々に甘くなってくるのがすごく好きだ。付けたての絵の具が徐々に乾いていって別の色を描き出す、そんな印象である。

www.aesop.com

④Laborratotio Olfattivo ”Vanhera”

去年の秋、新宿のノーズショップに行って嗅いでみてひとたびで絶対に買おう、自分のものにしようと決めた。バネラという名前から想像する安直な甘い香りの印象よりも、甘い香りと同時に殴りかかってくる四川胡椒の刺激的な香りが、バニラのありきたりで可愛いだけの印象をぶち破った。こういう可愛げと凶暴性が合わさった人間にあこがれて当時買ったし、今もそういった思いはあるが、マラケシュのような癒しや落ち着きのイメージがある香水を最近購入して、暴力しなくてもいいな…とも思っている。でもやっぱりこの香りを纏っている自分が好きだ。胡椒がトップにあるといっても重く甘い香りなので、私は秋冬に使いたくなる香りである。

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⑤Kerzon ルームフレグランス

香水はまだ敷居が高いなーという人におすすめなのはキャンドル、ルームスプレーなどの部屋に香りを乗せるもの。自分の部屋がお気に入りの香りがするのはとても安らぐし、気分転換にも最適だ。本品はクローゼットのためのコレクションと銘打たれていてなんだかほほえましい。私は寝る前のリネンフレグランスとして使っているけれどシダーウッドのさわやかな香りの中にイランイランの柔らかい甘さがあってとても安心する。一年半くらい使っているが2/3くらいしか減っていないので結構持つと思う。Kerzonのシリーズは重くない香りが多く、また商品の幅が広い(サシェ、キャンドル、ハンドスプレーなど)のでプレゼントにもおすすめ。

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最後に 

 言い訳がましくて書くのが嫌だが、筆者は香水を好きなだけで特別な専門的な知識があったりはしない。もし香水に興味を持ってくれて、詳しく知りたくなったら香水ショップの店舗に行ったり、本を読んだりすることを勧める(下記におすすめのショップを挙げる。)でも、詳しくなくても好きなことについて語っていいと私は思う。

 下記におすすめのショップを挙げておきます。

 

noseshop(ニッチフレグランス取り扱い。コンセプトを読むだけでワクワクする。)

celes(香水を少量から試せるサービス、おすすめの香りなどの診断も可能、有名ブランドの香水が少量ずつ試せる)

liberta perfume(複数の質問を経てオリジナルの香水を作ってくれる、試したい。)

 

※記事内でさんざんおすすめしたNoseShopですが、オンラインで香水ガチャをやっていらっしゃるので、香水興味がある方はぜひ今のチャンスに課金してみてください!

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