2022/1/12 日記

2021/1/10 日記の続きです

 

そんなバカげた近隣住民による噂もあながち嘘ではないと思っている。それは整備すれば金になる土地を放置したり、通常の思考から逸脱しているからとかそういった理由に限らない。70半ばだろうか、年の割には背筋が伸びた翁が雨が降った深夜、決まって廃屋の中にいるのを見たからだ。何も私も好き好んでそんな時間に近所を徘徊しているわけではないと断っておく。自宅から少し離れた牛丼チェーンでのバイトの帰りにたまたま廃屋の前を通りかかり、翁の姿を発見したというわけである。一度となく雨の降る夜、翁は小屋にやってきて何事かを行っている。壊れかけた壁にさえぎられて見えなかったが、ぼんやりと雨に透過した白髪が揺れているのが場違いに視界に焼き付いていた。

 不気味な小屋と、得体のしれない翁について気になることと思うが、ここで一度自分の話をしようと思う。私は現在日銭を稼ぐために、フラフラと牛丼屋のキッチンでバイトをして日銭を稼いでいる。一人暮らし、パートナーなし、フリーター。故郷を離れてこの土地(割と都会、新宿まで40分程度)へ流れ着いた。何事にもやる気がなく、出不精の自分は比較的良い家柄である親類の期待を裏切り、成人を過ぎても稼業をつげなかったのである。家の名誉を守るため、出不精で能天気な長男ではなく、生真面目で冷徹な弟君に後をつがせる、と父に宣言された時、まあ妥当な判断だろうなと冷静に受け止めている自分がいた。正直に言うと稼業に向いていないのは幼少期から自分が一番分かっていたが、正直因果な稼業を継がずにいられることに対しほっとしたのである。だらだらと実家で過ごすも、優秀な弟とぐうたらな兄、といった周囲の目線に居心地の悪さを感じていた。稼業ができなかっただけであり、自分が行うに値する仕事が落ちてこないのである。そうあまりにも楽観的な考えから故郷を離れこの地に辿り着いた。本来は2年前にある伝手から仕事の話は合ったのだが、何かの手違いで契約破棄になったのである。といった理由からかれこれ1年程度日銭稼ぎのバイト暮らしだ。深夜の牛丼屋はピークの時間を過ぎると一気に暇になり、実に良い職場であった。店長が適当な性格もあり、賄もほぼ自由と言ってよいほど融通が利いた。故郷で就職できず、意気込んでこの地に来た身分としてはこのまま帰るのもなんだかみっともないので漫然と日々を過ごしている。

 といった感じで、草の根生活を続けている自らには、金があり地位もある身分で何が悲しくてこんな夜ふけの雨の中、あまざらしの廃屋に通っているのか全く理解できないのだった。まあこれが理解できる人間はあまりいないに違いない。