2021/1/10 日記

ここには魔物がいる。そう分かったときにはもう事態は終結を迎えていた。埃っぽい匂いの中で黄色い新品のビニールのような膜につつまれた器官を見ながら、今この瞬間を夢のような気持ちで過ごしている。

 近所には廃屋があった。駅前にはパチンコ屋、さびれた商店街のある街だ。そこから徒歩30分、住宅街の外れにある自らの家から数本隣の路地の突き当り、野良猫すら寄り付かない鬱蒼とした草木に覆われて朽ちかけた姿をさらしている。管理者はその土地一帯の地主で、やや変わった人として認知されている。そもそも自分が田舎からこの地へ越してきて数年、この廃屋がそもそも何の用途で使われていたのかがわからなかったのだから。家、というよりもはや小屋のようである。向かって正面は申し訳程度にロープが張ってあるが、風雨にさらされてすでに色褪せてボロボロになっている。そんなもの気にせずに内部への侵入が可能である。空地から側面を除くとコンクリートの壁は崩れ、中の様子が見える。6畳くらいの空間には中には粉粉のコンクリート片が床を白く覆っている。目立つものといえば腰くらいの高さの四角いコンクリートブロック。誰かが住んでいた、というような気配はない。こんな廃屋を放置すると動物が住み着いたり、さらにもっと悪い存在の根城になるという可能性は容易に想像ができるし、そういった理由を主に近隣の苦情が入っているが、なぜか地主はこの屋敷を改修なりつぶすなりをしないのである。この頑固さはもはや病的で、根負けをするかあきらめるか、今残っている住民はあきらめ受け入れた人々である。これだけ強い意志を持って、小屋を残しておく理由は、近隣住民はさっぱり理解ができていなかった。噂では連れ込んだ女性を監禁していた小屋だとか、はたまた地面に死体が埋まっているとか、物騒な内容がまことしやかにささやかれていた。